ChatGPTやGeminiといったAIツールが、まるでスマートフォンのように当たり前の存在になってきました。宿題の手伝いから仕事の資料作成、ちょっとした相談まで、何でも答えてくれる便利さに多くの人が魅了されています。
でも、ちょっと待ってください。その便利なAIツール、実は思っている以上に危険な一面があることをご存知でしょうか?
まるで友達と話しているような感覚で使えるChatGPTやGeminiですが、実際には「あなたが入力した情報がどこでどう使われるか分からない」という大きなリスクが隠れています。今回は、AI業界のトップたちが実際に警鐘を鳴らしている問題と、私たちが安全にAIを使うための具体的な方法について詳しく解説します。
一番大きなリスク:あなたの情報が学習データになる!

基本的な仕組みを理解しよう
まず知っておくべき重要な事実があります。ChatGPTやGeminiに入力した情報は、基本的にAIの学習データとして使われるということです。
これは、あなたがAIと会話した内容が、将来的に他の人への回答に影響を与える可能性があることを意味します。例えば、あなたが「うちの会社の売上は去年より20%下がった」と入力したとします。すると、AIはその情報を学習して、将来誰かが同じ業界について質問したときに、「最近この業界は売上が下がっている傾向がある」といった回答をする可能性があるのです。
決算情報を入力する危険性
特に危険なのが、会社の決算情報や内部データをAIに入力してしまうケースです。「この数字をグラフにして」「この決算資料を要約して」といった使い方をすると、あなたの会社の機密情報が業界全体のデータとして学習され、競合他社にも間接的に情報が漏れてしまう可能性があります。
デフォルト設定について
さらに注意すべきなのは、ChatGPTもGeminiも、初期設定では「学習に使用する」がオンになっていることです。つまり、多くのユーザーがこの設定を知らずに使い続けているということです。
これは、スマートフォンを買ったときに、位置情報の共有設定がオンになっていることに気づかずに使い続けるようなものです。便利な機能の裏で、自分の情報がどう使われているかを把握しておくことが大切です。
専門家たちが警鐘を鳴らす様々なリスク

サム・アルトマンの警告:カウンセラー代わりの危険性
OpenAIのCEOであるサム・アルトマンは、特に若い人たちがChatGPTをカウンセラーや心理療法士の代わりに使うことについて強い懸念を表明しています。
「AIは人間の心理療法士ではありません。深刻な心の問題を抱えている人がAIに頼ってしまうと、適切な治療を受ける機会を逃してしまう可能性があります」と彼は警告しています。
実際の心理療法士には守秘義務があり、患者の情報は法的に保護されています。しかし、AIとの会話にはそのような保護はありません。むしろ、あなたの心の悩みが学習データとして使われ、将来的に他の人への回答に影響を与える可能性すらあるのです。
実際に起きた情報漏れ事件
2023年3月には、ChatGPTで実際に情報漏洩事件が発生しました。Redis(データベース管理システム)のバグにより、一部のユーザーが他のユーザーの会話タイトルや、会話の最初のメッセージを見ることができてしまったのです。
さらに深刻だったのは、ChatGPT Plusの有料ユーザーの支払い情報(名前、メールアドレス、クレジットカードの下4桁など)が、他のユーザーに見えてしまった可能性があることです。
また、2025年8月には、ChatGPTの共有機能を使った会話がGoogleの検索結果に表示されてしまう問題も発生しました。個人的な相談内容や履歴書などの機密情報が、誰でも検索できる状態になってしまったのです。
AnthropicのCEOが指摘する更なるリスク
Claude AIを開発するAnthropicのCEO、ダリオ・アモデイは、さらに深刻な問題を指摘しています。彼は「AIが生物兵器の製造方法などの危険な情報を提供してしまうリスク」について警告しており、特に中国企業による安全性テストの結果に懸念を示しています。
また、AIシステムが悪意のある目的で使用される可能性や、AIが人間の価値観と異なる判断を下すリスクについても言及しています。
人間による会話レビューのリスク
また知っておくべきなのは、あなたのAIとの会話が人間のスタッフによってレビューされる可能性があるということです。
OpenAIは「システム改善のために会話をレビューすることがある」と明記しており、Googleも同様に人間による手動レビューを行っています。つまり、あなたが「誰にも見られない」と思って入力した内容が、実際には企業の担当者に読まれる可能性があるのです。
安全に使う方法

学習データ使用のオプトアウト方法
まず最初にやるべきことは、学習データとしての使用を停止する設定です。
ChatGPTの場合:
- OpenAIのプライバシーポータル(privacy.openai.com)にアクセス
- 「Do Not Train」リクエストを送信
- ChatGPT内の設定で「メモリー」機能をオフにする
Geminiの場合:
- myactivity.google.com/product/gemini にアクセス
- 「Gemini Apps Activity」をオフにする
ただし、Geminiの場合は学習を停止すると、Google DocsやGmailとの連携などの便利な機能が使えなくなるというトレードオフがあります。
API利用という選択肢
より安全な方法として、API(Application Programming Interface)を使用する方法があります。
APIを使用する場合、あなたの入力データは学習に使用されません。これは、一般向けのChatGPTやGeminiのウェブサイトではなく、開発者向けの専用インターフェースを使用する方法です。
ただし、APIの使用には技術的な知識が必要で、使用量に応じて料金がかかります。企業や技術に詳しい個人向けの選択肢と言えるでしょう。
個人情報を入力しないルール
最も基本的で重要な対策は、個人情報や機密情報を絶対に入力しないことです。
入力してはいけない情報の例:
- 本名、住所、電話番号
- クレジットカード番号や銀行口座情報
- 会社の決算データや内部情報
- 個人的な健康情報や家族の情報
- パスワードやアクセス情報
代わりに、「A社」「B製品」「友人のC」といった仮名を使用することで、リスクを大幅に減らすことができます。
企業向けプランとセキュアなAIエージェントの活用
多くのAI企業は、より厳格なプライバシー保護を提供する企業向けプランを用意しています。また、セキュリティを重視した専用のAIエージェントソリューションも登場しています。
| ソリューション | 主な特徴 | セキュリティ機能 |
|---|---|---|
| NuraGrid | 企業・チーム向けオールインワンAIプラットフォーム | 入力・出力データはモデル側に保存されない、管理者機能・権限制御対応 |
| ChatGPT Enterprise | 学習データとして使用されない | より強固なセキュリティ対策、管理者による利用状況の監視が可能 |
| Google Workspace with Gemini | 企業データの保護機能 | コンプライアンス要件への対応、データの地域内保存オプション |
| HPE Private Cloud AI | オンプレミス型プライベートクラウド | データ主権の確保、ゼロタッチセキュリティ、継続的監視機能 |
| Airia | エンタープライズAIオーケストレーションプラットフォーム | エンタープライズグレードの暗号化、アクセス制御、業界認証取得 |
| StackAI | ノーコードでAIエージェントを構築・展開 | SOC2、HIPAA、GDPR準拠、専用VPC環境での展開 |
| Cohere | プライベート展開対応のエンタープライズLLM | 専用VPC環境またはオンプレミス、エアギャップ環境での展開 |
これらのソリューションは個人利用には高額ですが、企業や組織での利用を検討している場合は、セキュリティ面で大きなメリットがあります。特にオンプレミス型のソリューションでは、データが外部に送信されることなく、完全に自社の管理下でAIを活用できます。
オンプレミス型AIエージェントの利点
特に注目すべきは、オンプレミス型のAIエージェントソリューションです。これらのシステムでは:
- データが自社のデータセンター内に留まる
- 外部クラウドサービスへの依存を最小化
- 規制要件への確実な準拠
- レスポンス時間の短縮
- カスタマイズの自由度が高い
まとめ

AIツールは確かに便利で、私たちの生活や仕事を大きく改善してくれる素晴らしい技術です。しかし、その便利さの裏には、私たちが理解しておくべきリスクが存在します。
重要なポイントをもう一度整理すると:
- 入力した情報は基本的に学習データになる
- 専門家たちが様々なリスクを警告している
- 適切な設定と使い方で安全性を高められる
AIとの付き合い方は、まるで新しい友人との関係のようなものです。相手のことをよく知り、適切な距離感を保ちながら付き合えば、とても良い関係を築くことができます。
大切なのは、AIの能力に魅了されるあまり、セキュリティ対策を忘れてしまわないことです。今回紹介した対策を実践して、安全にAIの恩恵を受けましょう。
技術は日々進歩しており、AI企業も安全性の向上に取り組んでいます。しかし、最終的に自分の情報を守るのは自分自身です。正しい知識を持って、賢くAIを活用していきましょう。







