国内随一の投資家が仕掛ける「AI革命」への賭け
2025年、ソフトバンクグループの孫正義会長兼社長が仕掛けた巨額AI投資が世界の注目を集めている。OpenAIへの4兆8000億円投資に始まり、総額75兆円規模のスターゲート計画への参画まで、その投資規模は日本企業の枠を超えた異次元のレベルに達している。
「人工超知能(ASI)の時代が到来する。われわれはその覇者になる」と宣言する孫氏の背後には、単なる投資家を超えた壮大な野望が隠されている。なぜ今、これほどまでの巨額投資に踏み切るのか。勝負師として知られる孫正義氏の真意を徹底的に解剖する。
総額75兆円「スターゲート計画」の衝撃的規模
ソフトバンクが参画するスターゲート計画は、OpenAI、Oracle、MGXと共同で推進する5000億ドル(約75兆円)規模のAIインフラ投資プロジェクトだ。この計画では、米国内に大規模なデータセンターとAI計算インフラを構築し、次世代の人工知能開発基盤を整備する。
具体的な投資内容を見ると、ソフトバンクはOpenAIに対して既に4兆8000億円の投資を実行済みで、これは同社の評価額1570億ドルの大部分を占める規模となっている。さらに、AI半導体企業Ampereの買収に9700億円を投じるなど、関連投資を積極的に拡大している。
他の大手テック企業と比較しても、この投資規模は突出している。マイクロソフトのOpenAI投資が130億ドル程度であることを考えると、ソフトバンクの投資額がいかに巨額かが分かる。
孫氏は「われわれは世界最大のAI投資家になる」と豪語しており、その言葉通りの実行力を見せている。
「AIインフラ王」への野望:孫正義が描く未来図
孫正義氏のAI戦略の核心は、人工超知能(ASI)時代のプラットフォーマーとしての地位確立にある。同氏は「AIの進化は指数関数的に加速しており、2030年までに人間の知能を1万倍上回るASIが誕生する」と予測している。
この予測に基づき、ソフトバンクは三層構造のAI戦略を展開している。最下層では、Armの半導体設計技術とAmpereのAIチップ開発力を組み合わせたハードウェア基盤を構築。中間層では、スターゲート計画によるデータセンターとクラウドインフラを整備。最上層では、OpenAIとの戦略的パートナーシップによりAIソフトウェアとサービスを提供する構造だ。
特に注目すべきは、マイクロソフト依存からの脱却戦略である。現在OpenAIはマイクロソフトのAzureクラウドに大きく依存しているが、ソフトバンクは独自のインフラ基盤を提供することで、この依存関係を切り崩そうとしている。「次のエヌビディアを目指す」と公言する孫氏の野望は、AI時代のインフラ王としての地位確立にある。
巨額投資を支える財務基盤:ビジョンファンドの復活
これほどの巨額投資を可能にしているのは、ソフトバンクの財務状況の劇的な改善である。2025年第1四半期の決算では、純利益が4218億円に達し、前年同期の赤字から大幅に回復した。
特に投資事業を手がけるビジョンファンドは4514億円の黒字を計上し、長期間続いた低迷から完全に脱却した。この好転の背景には、保有するエヌビディア株の価値上昇や、AI関連投資先の評価額向上がある。
ソフトバンクは現在、約6兆円の現金および現金同等物を保有しており、さらに保有株式の含み益を活用した資金調達余力も十分に確保している。
孫氏は「われわれには十分な弾薬がある。この機会を逃すつもりはない」と投資継続への強い意欲を示している。
AI覇権争いの行方:リスクと機会の両面
ソフトバンクの積極的なAI投資は株式市場でも高く評価されており、同社の株価は過去1年で大幅に上昇している。この株価上昇により、孫氏個人の資産も約1兆3000億円増加したと推定される。
しかし、スターゲート計画の実現には多くの課題も存在する。データセンター建設に必要な土地確保、電力供給の確保、規制当局との調整など、技術面以外の障壁も多い。また、中国のAI企業との競争激化や、米国の対中技術規制の影響も無視できない要因となっている。
投資リスクの観点では、AI技術の進歩が予想通りに進まない場合や、競合他社が先行する可能性も考慮する必要がある。特に、Google、Meta、Amazonなどの既存テック大手も同様のAI投資を拡大しており、競争は激化の一途をたどっている。
勝負師の最終章:300年企業への挑戦
67歳の孫正義氏にとって、このAI投資は経営者人生の集大成とも言える挑戦である。同氏は常々「300年続く企業を作る」という長期ビジョンを掲げており、AI革命はその実現に向けた最後の大勝負と位置づけている。
「われわれは単なる投資家ではない。AI時代の新しい産業構造を創造する建設者だ」という孫氏の言葉からは、日本発のグローバル企業として世界のAI産業をリードする強い決意が感じられる。
この挑戦が成功すれば、ソフトバンクは世界のAI産業の中核企業として不動の地位を築くことになる。一方で失敗すれば、巨額の損失を抱えるリスクも背負っている。変革期における企業戦略の重要性を示す象徴的な事例として、今後の展開が注目される。







